「天竺」目指して夫婦モバイル放浪

 
 

 

k日記チリ編

2000.2.1(火)

 船が出るぞーと言われた時間から早4時間が経っていた。外は、バケツをひっくり返したような雨が降ったり止んだりしていた。乗客達は、痺れを切らし、立ったり座ったり、その辺をうろうろしたり、くわえタバコに貧乏ゆすりに急がしそうだった。船は来ているのに・・・何故だか、まだ乗せてもくれなかった。

 そうこうしているうちにでっぷりした大きなオジさんがドアをばーんと開けてのしのしやってきた。おもむろにマイクを握るとゆっくりとしたスペイン語で何やら話し始めた。スピーカーから流れて来るスペイン語は、理解不可能だったが、何やら乗客の皆さんが動き出しでっぷりオジサンの方へぞろぞろ向っているのだけは理解できたので、うめちんも行って見るが、なんだか分からんと言って帰ってきた。

 そして、みんなぞろぞろ外へ出ていった。はて、なんだろうね?と呆けていると海賊船長のような立派なひげにベレー帽のオジサンが寄って来て「君達、船に乗るの?」と聞かれ「そうだ」と答えると「Vamo!!(行こう!!)」と手を大きく振った。やっと、出航できるらしい。外は、少し小降りにはなったが、まだ雨は降っていた。

 船は、ぽかんと大きな口を開けて私達を一気に飲みこんだ。薄暗い鉄の壁が、大きな空間を作っていた。ガコンと言う音と共に天井から一筋の光が差しこみ、天井の一部がするすると降りてきた。私達が立っているところまで降りてくると、乗客をいっぱい乗せ、ガコンと言う音と共にするすると天井に向って動き出した。そして、ガコンと言う音と共にまた薄暗い空間に戻って行く。何回目かの天井板に乗って地上に出て、足早に船室へ向う。

 大きな木製のドアを開けると椅子がたくさん並んだ広いホールがあった。しかも、洗濯物が干してあったり、その辺で大きなおばちゃんが数人、井戸端会議してたり、子供が椅子の間を走りまわったり、狭い椅子の間で荷物を持って右往左往しているオジサンがいたりと、すでに生活感あふれる空間と化していた。そんな空間の2席にやっとのことで陣をとることが出来た私達。しかも、一番前の大きな窓の前。でも、眺めは車が見えるだけのつまらないものだった。

 そして、たくさんの人を飲みこんだ大きな鉄の塊は、ゆっくりとゆっくりと港を後にした。 険しい山々の間の緑の水面をするするすべるように進んで行く。ここは、両側が険しい山々で、海なのに川のようにも見える。霧のような雨と風で、山水画の世界を見ているような錯覚に陥りそうだった。

 船の中は、意外と快適だった。風や波による揺れはほとんどなかったし、4食ついているご飯もまあまあおいしく量も結構ある。ビールやお菓子類も良心的な値段で売っていたし、映画やお笑いショーとか客を飽きさせないこともやっている。しかし、なんと言っても一番飽きないのは、雨や雲や太陽で、いろとりどりに変わり行く景色をビール片手にホエーと眺めていることだろう。夜になれば、何十万と言う数え切れない無数の点が暗闇を隠さんばかりに輝いていた。寒さに耐えながら、いつまでもそれを眺めていた。そして、贅沢な時間が流れて行く。

 

 
2000.1.31(月)