「天竺」目指して夫婦モバイル放浪

 
 

 

k日記チリ編

2000.1.18(火)

 テントが撓っていた。あの雨に弱いダメテントがものすごい強風と格闘している。風に強い形をしているだけだが・・・今日はダメテントには見えなかった。

 今日は、グレイ氷河の隣にあるフリーキャンプサイトCampamentoLosGuardasまで行こうと決めていた。CampamentoItalianoを出て一旦LagoPehoeまで下り、そこからLagoDeGreyの横を通りGlaciarGreyを目指す約8時間の行程だと地図には書いてあった。

 テントを出るとものすごい強風が横から吹き付け、寒さがまとわりついた。軽くなっているにもかかわらず重く感じるバックパックを背負って、風に向って歩き出した。

CampamentoItalianoからLagoPehoeまでは、横風が強く飛ばされそうになったが、まったくの平坦道で楽勝だった。風に吹かれて撓る森を眺め、自然のすばらしさに感動する。

 LagoPehoeのほとりで湖を見ながら、お昼にすることにした。途中の沢で汲んだミネラルウォーターをごくごく飲んで、昨日のうちに作っておいたサンドイッチを一口パク・・・なんか変な味がする・・・何処かで嗅いだことのある臭いつき。これは・・・ガソリンだ!!どうも入れてきたビニール袋にガソリンがついていたらしく、どのサンドイッチもガソリンの味と臭いがした。

 どうするこれ・・・腹は空いてるが、コンロが壊れてるので他のもの作れないし・・・と考えこんでしまった。しょうがない食うかぁとパンを手に取ると臭いがだいぶ消えていた。考えこんでいる間に日に干されガソリンが気化したのではと思うことにして、ガソリン味のサンドイッチを口に押し込んだ。火が吹けるようになるかもねぇなんて冗談を飛ばして見たがゲップするとガソリン臭が上がってきて、あながち冗談でもなかった。

 腹が満たされたところでGlaciarGreyを目指し歩き始める。吹き降ろしの強風吹きすさぶ、山間の谷間をしばらく歩くと急な登り坂がやってきた。登っても、登ってもずーっと登り坂。やっと登り終わったと思うとまた登り坂がやってくる。一体、何処まで登るんだ?と疑問に思った。しかも、登って行くにつれて横からの風が前から吹いて来て、さらに強くなっているような気がする。途中の小さな湖で、湖面が風に吹かれ海のように波立っていた。それどころか、湖面の水が風に巻き上げられ水柱までも作っている。

 LagoDeGreyが見える頃には、向かい風に阻まれて前に歩けない程に強くなってた。それでも、進まなければいけないのが辛かった。風がちょっと弱まったすきにいっぱい歩き、強くなったら飛ばされないように耐える。そんな感じで歩くしかなかった。しかも、次第にルートは登り下りが急になってくる。途中、LagoDeGreyに浮かぶ氷河を見たときには、踊らんばかりに飛び跳ねて喜んだが、飛んだ瞬間に横に飛ばされた。 

 写真を撮ろうと足を踏ん張りカメラの電源を入れるがまたもや機嫌が悪く起動しない。そうこうしているうちにうめちんの帽子が一瞬のすきに10mくらい飛ばされ、それを追うようにうめちんまで飛ばされて行ってしまった。

 そんなこんなで強風と戦いながら歩いて、遠くLagoDeGreyの向こうに青く何処までも続くGlaciarGreyが見えた時には、感動と共に疲れが一気に襲ってきた。そこから歩けど、歩けどGlaciarGreyには近づかなかった。崖を降りたり登ったりいくつも峰を越えたのに、いつまでたっても大きさが変わらない。

 やっと、氷河の青が分かるところまでたどりついた時には泣きたいくらいに疲れ果てていた。「きょうは、Refugioに泊まろうか?ほら、雨降ってきたし、今日は止みそうもないし、つかれたよ。フリーサイトまで行ってもどうせテント張れないって」と弱気な発言のうめちん。でも、私も疲れで弱気になっていた。「うん・・・そうねぇ」と答えるばかり。取り合えず雨がおさまるまでRefugioで休憩することにする。

 Refugioの料金表や細かい地図を見ているとケチなところが出てきた二人。なんだか元気になっちゃった。雨も収まったし、とフリーサイトに向うことになってしまった。歩き始めるとまた雨が降ってきたが、黙々と歩いた。崖下に幾重にも幾重にも氷河が連なり、日光を浴びて薄ら青く輝いていた。見晴らしのイイ岩場に出るとそれがよく見えた。氷河の向こうは深い雲で覆われ未知の世界と化していた。ここも、人が踏みこめない領域か・・・いったい何処まで続いているのだろうか?

 結局、雨が強くなりフリーサイトに行くことを断念して、Refugioでちゃんとしたテントを借りて泊まることにする。お金は、二人のポケットを探ったら足りるだけ入っていた。

 疲れ果てた私達は、一気に堕落した。ここから船で帰ろうとか、馬を借りようとか、ダメトレッカー再発である。金がかかる事に関しての情報がまったくない私達はRefugioに聞きに行ってみた。すると「船は、3年前に無くなったわ。崩れた氷河が向こう岸に溜まってるでしょ。あれで船が通れなくなっちゃったのね。馬?馬はね1頭借りるのに50ドルかかるわ。二人で2頭だけど、バックパックは背負って馬には乗れないことはないけど危険だから、荷物用の馬を1頭ほしいわね。だから最低3頭必要だから・・・150ドルはかかるわよ」そうですか・・・急に歩きたくなってきた。ゲンキンな二人である。

 ご飯を食べたあと、記憶がプツッと無くなった。

 
2000.1.17(月)