「天竺」目指して夫婦モバイル放浪

 
 

 

k日記チリ編

2000.1.17(月)

 体のあちこちがぎしぎし言っていた。起きあがるのも容易でないほど体のあちこちに筋肉痛がはびこっている。しかもパイネに来てからシャワーを浴びていないため、なんとなく自分から悪臭が漂っている。これではイカン。うめちんの足の臭いの比じゃなくなってしまう。速攻洗濯アンド体を拭くぞと痛い体を無理やり起す。腹が減ったから先にご飯にしようよと洗濯に対する気力に横槍を入れてきた。そういえば、腹へってるなぁ。洗濯は、ご飯の後でイイかぁ。と意思の弱いところが出てしまった。

 使った食器と洗濯物を持って沢に向う。沢に出ると冷たい風が強く吹いていた。さぶっぃぃぃ。背中が猫のように丸まる。沢は轟々と唸りを挙げて流れていた。逆らった風に吹かれて水飛沫が飛んでいる。案の定、凍るように冷たい水だった。食器洗いはうめちんに任せて、私は石を組んで洗濯場を作り洗濯を始めた。1分も手を水につけていると感覚が無くなる。洗濯の間、絶え間無く水飛沫を浴び、最後に一発、強烈な突風と共にシャワーのような水飛沫を浴び自分も干さなければいけなくなってしまった。ついでだからと、濡れたタオルで丹念に体を拭いてさっぱり。これで、だいぶ悪臭がしなくなった。ホッとする瞬間だった。

 洗濯の後は、暇がやってきた。うろうろとその辺をうろつき、動けない私はテントで横になっていた。何処からともなく、新しいコンロを持って帰ってきたうめちん「夕飯作ろう」とニコニコしている。どうしたのそれと聞くと「あっちでテント張ってたドイツ人が、ガソリンと交換で貸してくれたんだ。なんでも燃料が少なくて困ってたところだったんだと」とラッキーな話しだった。

 夕飯を食べ、少し元気になったところで沢を登ってみることにする。この沢は、地図によるとちょっと登れば氷河が見れるようなことが書いてあった。痛い足を引きずり、歩き始めて30分。だだぴろい岩場に沢を挟んだ目の前に青い氷河が現れた。氷河の端から轟々と溶けた氷河が流れている。氷河って本当に青いんだぁ・・・再認識する。

 もうすぐ、日が暮れる。帰り道を急ぐ傍ら、目の前に広がっていた緋の稜線を撮ろうとカメラを取り出す。電源を押すがウンともスンとも言わない。何度もやって見たが結果は同じだった。うめちんに渡すとあちこちポコポコ叩いていたがやっぱりつかない。とうとう寿命が来たか?このカメラ・・・そんなの困る。これから、まだまだ先があるし、なんて言ってもメインのグレイ氷河を撮ってないんだからぁと勢いよくカメラの頭を叩いたらジーッと言って動いた。ああ、よかった。急いで1枚撮って、森が帰っておいでと、ささやく。そして私達は、森へと吸いこまれて行った。

 明るいうちにデジカメのデータを吸っておこうと、パソコンを取り出し電源を押す。しばらく待つ・・・待つ・・・やっとウインドウが起動した途端「システムウィルシャットダウン・・5・4・3・2・1・ブーーン」メッセージがいきなり出てきて電源が落ちてしまった。あれれ?ともう一度電源を入れるが今度はいつもと違う画面が出てきた。メッセージを読んで見ると「バッテリーザンリョウフソクノタメシステムヲキドウデキマセン・・・アシカラズ」なに??昨日はそんなこと言ってなかったじゃないかぁ!!と絶叫。 

 昨日、電源を入れた時点では、バッテリー残量70%と言っていたのに、どうしてよ?とパソコンを責めるが「バッテリーザンリョウガ・・・アシカラズ」と言うばかり。カメラばかりかパソコンにまで見放されたぁ。ダメテントに歩き始めて30分で穴の開いた靴下、機嫌の悪いコンロ、料理の最中に柄が折れてしまったフライパンそして、ガソリンを入れたペットボトルまでもが蓋が壊れてガソリンが漏れ出していた。パイネに来てから物が壊れたり動かなくなったりするのが多すぎる、ここには特別な磁場でも流れているのか?それとも呪われているのか?なんいせよ、これ以上物が壊れてもらっては困るのだ。

 今日もどこかの氷河がものすごい音と共に氷河としての生命を終えている。ああ、パイネの短い夜は深けて行く。

 
2000.1.16(日)