「天竺」目指して夫婦モバイル放浪 |
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k日記チリ編 2000.1.15(土) 寒さとからだ中の軋みで夜中に何度も起きる。足や背中が深々と冷えてくる。「こんなに着て寝てるのにこんなに寒いなんて・・・外は、もっと寒いのかなぁ」とトイレに行きたかったが億劫になってそのまま寝てしまった。辺りが明るくテントを照らし出した頃、ようやく寒さがなくなり安眠できるようになった。すると「おはようございます」とテントの外から声がした。 寝袋から顔を持ち上げるとわざわざコーラを買いに行った日本人がそこに中腰で座っていた。「これから、Torresに行ってこようと思うんですよ。また、帰ってきますからまだ寝ててイイですよ。ああ、それと昨日のワイン持ってきましたら」とワインを置いてさっさと行ってしまった。そのまま、首を寝袋に落としまた眠ってしまった。 「ただいま」と言う言葉で目が覚める。あ、もう行って来たんかい、さっきからそんなに時間たってないよ。と、またもや首を上げると「そんなにかからなかったですよ。それに上の方は、雨降ってましたから直ぐ降りてきたんですよ」ああ、そうですかと、もそもそ起き上がりいっしょに朝ご飯を食べることにする。テントを出るとさすがに寒かった。空気がピンと張り詰めている感じがする。 朝ご飯の準備をしているとぽつぽつと雨がやってきた。テントサイトの森からトレッキングルートを見ると結構な勢いで雨が降っていた。ああ、今日はTorresに登るのは無理かしら?と諦めムードに突入してしまった。朝ご飯を食べた後「じゃあ、私は帰りのバスが在りますのでこの辺で失礼します」とワインを運んでくれた彼は、雨の中に歩き出していった。 森の木々で守られているテントサイトにも程なく雨が降ってきた。テントに避難して雨が止むのを待つことにする。コスタリカで買ったテントにはフライシートがついていなかったので、雨には弱いんだと心配げなうめちんが、ゴロンと横になるとちょうど目線の向こうに小さな白い模様を発見した。んん?なんだこれはと目を近づけよく見ると・・・外の曇り空がよく見えるとしかめ顔でこちらを向いた。そして、うめちんの寝袋の上に座った私の足がなぜか濡れていた。はて?と変に思い寝袋を触るとヒヤッと冷たい。???寝袋を持ち上げるとその下には水が溜まっていた。よく見ると私の寝袋にまで到達しようとしている。急いで寝袋を安全な場所によけタオルを持って水溜りの方を向くと下敷きのビニールと屋根部分の結合部から雨がピタンと1滴垂れたのを目撃してしまった。 それからは、縫い目のあちらこちらから雨は進入してきた。とんでもないダメテントだったのである。荷物を真ん中に寄せ、タオル片手に雨との格闘が始まった。幸い、1時間ほどで雨は止んでくれたが、とんだ被害をこうむった。「今度、雨降ったら、どうする?」「雨降らないことを祈るしかないね」「・・・」こんなダメテント捨ててしまいたい気分だった。 雨が上がった後も鈍より空には変わりが無かったが、絶えず吹く風に空は自在に変化した。雨もしばらく降りそうにないし、Torresに登ろうとカメラと取り合えず合羽を持って風の中へ歩き出した。道という道は少ししかなく岩だらけのところをぽんぽんと登って行く。途中、沢沿いの道があったが、近道をして岩の上を歩いた。 トレッキングと言うよりロッククライミングの部類に入るんじゃないかと思うくらい岩だらけだ。足場の岩も選ばないと崩れ落ちてしまう。前を行っている人が1個岩を踏み外すとトンデモない事が起こっても不思議じゃないところだった。 登るにつれて崩れやすくなってきているように思われた。しかも、風も時折ものすごい勢いで吹いてくる。下からの吹き上げだったので助かったが吹き降ろしだったらもう落ちていただろう。ちょっと考えるとヒヤッとする。だいぶ上まで登ってきたが、ものすごい強風に私は、リタイヤしてしまった。うめちんが上まで行って写真を撮ると言うので風が当たらない岩と岩の間にすっぽり収まって待つことにする。 ふと、岩場の向こう下を見ると谷間になっていてそこにたくさんの人が向っていた。はて?あっちは何があるのかしら??谷間をずーっと横に見ていくとその先にはTorresの三つの先端が岩の向こうにちょこっと見えるではないか。もしかして、あれがTorresのビューポイントなんじゃないかしら。私達、道を誤った?うめちんが無事てっぺんから帰ってきたのでそのことを告げると谷間を見て「そうだよなぁ、たぶんあっちが正解だと思うよ。だって、てっぺんは風が強くて・・・風速30m/sはあったよ。あんなとこ、普通じゃ登れないって。俺、薄いからさぁ飛ばされそうになっちゃった」と言うわけで、本道に戻り無事Torresのビューポイントへ到着。 目を見張るような美しさだった。険しい山肌には、人を寄せ付けない何か特別なオーラを出しているようだった。風に吹かれ移り変わる雲模様がまたなんとも言えない雰囲気をかもし出している。そして、青い氷河が足元を固め溶けた氷河が湖を作っていた。私達は、遠くから見るしか出来ない・・・「ここに神が存在すると言われれば、信じてしまうだろう」とうめちんがつぶやく・・・そうかもしれないと思った。 後ろ髪を引かれる思いで下山する。あんなに足場が悪かったにもかかわらず不思議と登るときより簡単に降りれた。沢沿いの道に出たとき、横の岩場をゴロンゴロンと大きな音を立てて中型の岩が転げ降りていった。ああ、落石だぁとぽかんと眺めていたが、もしかすると自分にあたっていたかもねぇなんて考えると恐怖が背中を走った。幸い恐怖の悲鳴も聞こえず、岩だけがむなしく転がっていっただけだった。 キャンプサイトに戻ってくると一気に暇になった。テントの穴をセロテープで留めたり、濡れたタオルや寝袋などを干したりしたがそれでも時間はたっぷりあった。じっとしてると寒くなる。と言うことで、直火禁止にもかかわらず焚き火を始めてしまった。薪を探しにそこいら辺をうろつき、適当な木を拾って来ては、盛大に燃やした。 そんな事をしばらくしていると今度は、お腹が空いてきたので、ご飯を作ることにする。愛用のコンロを取り出すが、今日は機嫌が悪くなかなか火が安定しない。一生懸命、掃除をするが一向に機嫌が直らない。どうしようか?と言っているうめちんの目が焚き火を見ていた。鍋にススが付くからと今まで直火は遠慮してきたが、こうなってはしょうがない。素直に炉を組みなおし鍋を置いて料理をすることにする。 その傍ら、コンロ直しをするうめちん。突然、あーーーと叫んだかと思うと、地面につかんばかりに顔を近づけ、何かを探していた。どうも、掃除口のパッキンがちぎれていて、その破片が風で何処かに飛んでしまったらしい。それが無いとガソリンがそこから放出されてコンロが2度と使えなくなる。切れていても無いよりはマシだと言っていた。 相当探したが残念なことに、とうとう出てこなかった。うなだれるうめちんがそこにいた。「明日、町に帰ろう」とまで言っている。「イイやグレイ氷河を見るまでは帰れない」と反論すると「じゃあRefugioでコンロ借りる?高いよ、ん」と険悪ムード。しばらく黙々とご飯を食べる二人「こんなことでけんかしてもしょうがないじゃんか。なんかイイ方法を探そうよ」とうめちん。「そうだよねぇ。なんとかなるってぇ」と仲直り。要は、パッキンの代用になるものを探せばいいんじゃないかぁと前向きに考える。 ご飯を食べた後、いろんなもので試して見る。まず、スープの銀袋。ねじに合わせて丸く切り願いを込めてキツク締める。そして、点火。一瞬の後シュウウウと言う音と共にガソリンが放出一気に燃えてなくなってしまった。そして、卵の硬質紙ケースも試したが同じ結果だった。荷物をひっくり返しいろいろ探したがイイ物が見つからない。「靴の底ゴムなんてどう?」と提案したがでこぼこの一山はねじより小さくパッキンの役割を果たさないことが判明、切り取る前にあきらめてしまった。 思案尽きてうなだれてると自分の下に敷いてあるウレタンマットが目に入った。あまり切りたくないんだけど、しょうがないと小さく切って再度実験。やった、無いよりはマシなくらいにガソリンが漏れて来ない。これで、グレイ氷河に行ける!!と二人で飛びあがって喜んだのもつかの間、やっぱりシュウウウと音がして発火。ウレタンは、溶けてねじにこびりついていた。ガックリと肩が落ちたのはいうまでもない。 辺りが薄暗くなってきた頃、遠くの空で貪欲な轟音が鳴り響く。ああ、どこかの氷河が落ちたんだぁ。昨日より厳重に着こんで寝袋に入り、何度と無く氷河の叫びを聞いたが、いつしか深い眠りに陥っていた。 |
2000.1.14(金) |