「天竺」目指して夫婦モバイル放浪 |
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k日記ブラジル編 2000.7.6(木) ボア・ビスタから先のペルミソ・デ・アドゥワナ(輸入一時許可証)をボアビスタの税関で作ってもらい、コレから何も無い所を走るための食料をたくさん買い込み、マナウスに向けてボアビスタを出発した。 順調に走る牛次郎。アクセルを踏み込む快調な青山さん。あっという間にカラカライと言うちょっと大きな街に着いてしまった。地図を見ると、カラカライの先は、マナウスまで大きな町も無く小さな村落のみらしい。 カラカライのガススタで、満タンにガソリンを入れ、運転をうめちんに変わって走り出した。カラカライから少し走ると、大きな工事看板が目に入る。どうやら橋の工事をしているらしい。回り道の標識があったので、従うことに。すると、その道は、川に向かって伸びていて、川の中に飲み込まれていた。これは、どういうこと?前に進めないじゃないか?と、そんな心配はご無用。ちゃんと艀を着けた連絡船が行き来をしていた。 上手く艀に車を乗ると、ゆっくりと出発した。茶色の川をゆっくり進む。新しい橋は、真ん中の部分の桁をかけた所で、もうすぐ完成の様子。脚が高く、下を船が通れるように作っているらしい。はしゃぐうめちん。写真を撮りまくっているうちに、対岸に到着。ゆっくりと岸に着いた。走り出そうと、エンジンをかけようとするが、なかなかエンジンがかからない。そういえば、朝もエンジンがかからず、みんなで後ろから押したっけ・・・最近、エンジンのかかりが悪いなぁ・・・そんな事を思っているうちにエンジンがかかったので艀を降りる。 そして、まっすぐで何も無い道路を軽快に走り出した。思えば、アマゾンと言うイメージとは、程遠い道路だっと思った。木が生い茂り、ジェングルの中の1本道と言うイメージがあったのだが、実際は、道路の両脇の土地は、ほとんどが人間が開拓した牧場と化していた。そうじゃない所は、緑が削られ赤い大地が丸見えの壊れたジャングルばかりだった。何か違うな?そんな感じがした。牧草地ばかりを見ていると、やっぱり飽きて来るので、後ろに下がって本を読み始める。 と、突然のキューブレーキ。そして「ちょっと、人が死んでる!!」と言う、うめちんの叫びに耳を疑う。そして、膝折りで窓の外を見ると数台のトラックが両脇に停まり、そのうちの1台の後陰の道路に少し小太りのオジさんらしき人が捨てられるように横たわっていた。私には、そう見えた。反対側では、路肩の向こうの湿地帯で炎上している車の消火活動を数人で行なっていた。 車を路肩に停め「k、後ろの絨毯剥いで。怪我人運ぶから」そうはき捨てて、外に出て行ったうめちん。急いで、荷物をどけ、絨毯を剥がすと、数人の男が血だらけの若い女性を運んできた。苦しそうに「ウー、ウー」と唸っている。青山さんの枕をあてがい、苦しくない体勢を取らせる。どうやら、腰を強く撃ったらしく脚の付け根が痛いらしい。それと、顎を強く撃ったらしく横にパックリ切れていた。そのせいかどうかは知らないが、大量の血がのどに流れ込み苦しいらしい。 そして、もう一人。先ほど、窓から見ていた人はと、窓の方を振り向くと、みんなで運ぼうとしているようだった。一人の男が、腕を取り脈を計って、腕をポイっとほおってしまっていた。どうして?もしかして、もう・・・そう思った。体が大きいので5.6人で、持ち上げ車に運んできた。よく見ると頭を短く切っていたのでオジさんかと思っていたがオバさんだった。 こちらはすでに、死亡していたようだ。左わき腹に30cmほどの深い斬り傷があり、もう血は止まっていた。耳から血を流していた。二人を横たえると、一人のおじさんが乗ってきた。どうやら、この人も被害者らしかった。鼻から血が出たような跡があり、洋服も血だらけだった。そして、意識不明のオバさんの名前を一生懸命呼んでいた。 「どこの病院へ行けばいいんだ!!」と怪我人をはこんできたオジさんに聞くと「カラカライの病院だ!!そこが一番近いから」え?カラカライってさっき青山さんとうめちんが運転変わったところ?それって、ココから1時間くらいあるんじゃない?逆方向には病院ないの?せっかくココまで来たのに戻るのやだなぁ・・・不謹慎だけど、正直そう思った。でも、人助けだから行くしかない。「飛ばすよ!!」うめちんの言葉で、狭い道路で何度も切り返しをし、Uターン。カラカライに向けて牛次郎、猛ダッシュ。 今までにない速度で走る牛次郎。いくつもの峠を越える。その度、今度こそあの大きな橋を作る所が見ええるはず・・・そう思って何度も期待を裏切られる。心ばかりが早く着かないかと焦っていた。 猪飼さんが、若い女性の面倒を見ていた。ウーウー唸っているが、意識があるらしく、声を掛けると手を上げて答えていた。すでに死亡しているオバさんの頭を抱えて、泣き叫ぶオジさん。どうやら、オジさんの奥さんらしい。事もあろうにおばさんの頭を左右にゆすぶり名前を呼んでいた。そのうちおばさんの鼻から血が流れてきてしまった。「そんな事をしたら、だめだ!!」と制すると、発狂したように何やら叫び出した。 そしてティッシュで鼻を押さえながら「オイ、こいつはもう死んでしまったのか?天国に行ってしまったのか?え、どうなんだ」そんな事をジェスチャーを加えて聞いてきた。そんなの答えられる訳がない。涙がでそうになったが、ぐっとガマンし、黙ってティッシュを渡すと今度は「おい、こいつの脈を計ってくれ」と猪飼さんにオバサンの手を差し出す。脈なんてあるわけが無かった。それなのに・・・「なぜだ−、どうして、お前が行くんだー」そんな言葉をいつまでも叫んでいた。居たたまれない私達。言葉も通じない、慰めようもない、どうしようもないではないか。泣きたくなった。心が痛い。 ようやく、渡し船の所に到着。が、船は向こう岸に停泊していた。「怪我人がいるから早く!!向こう岸に電話ですぐ来るように連絡してくれ!!」と頼むが、しかし「ココには電話なんてない」と心配げな少年が申し訳なさそうに言った。こんな、何もない所で事故を起すということは、大変恐ろしい事だと思った。なぜ、救急車も呼ばず、怪我人を道路に放置したまま、どうでもいい(よくないが・・・)車の消火活動なんかしてたのだろう?と考えると、電話も携帯があっても電波が届かず使えない。近くの集落にも電話はなく病院も無い。救急車を呼べないし、救急車を呼べたとしてもカラカライからゆうに1時間もかかる。それなら、車が通るのを待っていた方が遥かに早いのだろうか?と思った。 エンジンを切って、対岸の艀が来るのをイライラしながら待つ。そういえば、最近エンジンのかかりが悪い牛次郎。ここで、エンジンを切ってしまって、大丈夫なのだろうか?もしかして、二度とエンジンがかからないのでは?そんな余計な心配までしてしまう。そして、やっとやってきた艀に車を乗せる。さっきは、あんなに楽しくこの艀に乗ったのに・・・こんなことになろうとは、予想もつかなかった。 艀の集落にいた保安官らしき人を乗せ道案内をさせるが、どうも頼りない。しかも、この保安官。私達が事故を起したと思って疑っているようだ。艀の上で車のナンバーを控えたりうめちんの名前を聞いて来たりしていた。何度か説明したが、めんどくさくなった。 現場にいたバイクの成年の先導で、カラカライの病院に無事到着。あたりはすでに真っ暗になっていた。若い女性の脈を計り、担架で運びだす。そして、オバサンの足を指でチョンチョンと突つき、首を触る。何か一言二言、言った途端、おじさんがそれまでになく大声で泣き出し、担架に乗せられたオバさんの頭に覆い被さるようにして名前を連呼していた。引き剥がされ、担架で運ばれて行くオバさん。そして、両肩を支えられておじさんも病院の中に消えて行った。呆然とその光景を眺める。 台風が去ったのごとく、どっと疲れが押し寄せる。しばらく、呆然の私達。数人のおまわりさんがやってきてあれこれと聞いてくる。幸い英語が出来る人が通訳に立ってくれて事情を説明すると、黙って病院に入っていた。まだ、私達が事故を起したと疑っているのだろうか? でも、怪我をしたおじさんが「私が起した事故だから、彼らは関係無いんだ。助けてくれたんだ」と無実を証明してくれた。なんでも、相当なスピードで飛ばしていて、道路の穴だか段差だかにハンドルを取られ、そのまま路肩に落ちクラッシュしたとのこと。自分で起した事故だったらしい。それで、奥さんが亡くなってしまったのでは、オジさん辛いだろうに・・・可愛そうになった。 車の掃除をしていると先ほどの通訳の男性がやってきて「ねえ、君たち。今日はコレからどうするの?」と言うので「いや、今日はカラカライに泊るよ。で、明日の朝マナウスに向けて出発することにしたよ」「ふーん、ホテルとかどうするの?」「うーん、ここの駐車場借りて、車の中で寝ようかと思ってるんだけど。水とトイレ貸してくれるかな?」「え、ここで寝るの?君達、遺体運んできた所に寝るの?嫌じゃないの?日本人は、みんなそんな感覚なのかい?」少しうんざりと言った顔をしている。「・・・いや、普通の日本人は、やっぱり気味悪がるって。でも、私達、ココしかいる場所無いし・・・ねぇ・・・」しょうがなじゃないか。それを聞いていた警察官が「ココじゃ不便だから、派出所の駐車場で寝るといい。シャワーもトイレも台所も使っていいから」そう言ってくれた。ありがたい申し出、遠慮なく受ける事に。 快適で安全な派出所で、シャワーを浴び今日一日の汗を流す。長い一日だったなぁ・・・亡くなったオバさんの御冥福をお祈りすると共に今日の出来事を教訓として私達は安全運転で行こうと心の底から思った。 |
2000.7.5(水) |