「天竺」目指して夫婦モバイル放浪

 
 

旅人の横顔4〜藤 暁之さん〜 2000.3.29

 私達がクスコにいた時、たまたま同じ宿に泊まった人が居ました。その人は、非常に色黒で、首からタオルを巻いていて、ジャージを着ていてと、どっからどう見ても工事現場のおじさんにしか見えない格好。「この人、何しているんだろう?」と初めは思ったものです。しかし目は優しく、どこか人を引き付けるものを持った人でした。

 それが、藤さんだったのです。藤さんは現在24才。北海道の大学を今春卒業して、一人南米大陸自転車横断をしている人です。


藤 暁之さん(24才)〜現在南米横断中〜

梅原(以下U)「なんか凄い黒いですね。」

藤(以下T)「そうなんですよ。こないだリマからナスカまで砂漠を200Km位走ってたんですけど、火傷になっちゃって。砂漠走るって言うのに、途中に街とかあるだろとか思って走り始めたんだけどぜんぜんなくって。」

U「あはは。そうだよね。リマ、ナスカ間ってずっと海岸砂漠地帯だもんね。」

T「そう。それで、走ってて暑くって、なんとかなんないかと思って走ってたんですよ。でもぜんぜん日影がなくって。仕方ないから、砂漠の中に頭突っ込んで寝れるかと思ったんですけれども、体が暑くってそれどころじゃなくって。自分のバカさかげんを呪いましたよ。」

U「で、今生きていると言う事はちゃんと街に着けたんだよね?」

T「そう。街に着いてレストランかどっかの床で死んだ様に眠っちゃったんですよ。気がついたら、子供がちょっと遠くでおしっこしていて、そのおしっこがこっちに流れて来るんです。その子のお母さんが笑いながら拭いてくれたんだけど、「ああ、俺こんな所に寝てるんだなぁ」って凄く惨めになって」

U「あははは。(爆笑) 大変だったんだねぇ。」

T「ええ、あの時は大変でした。火傷&おしっこですから」

U「そう言えば、どこからどこまで走る事にしてるの?」

T「一応、ペルーのリマからブラジルのリオデジャネイロまでですね。それから後、アメリカに戻って1000Km位走るつもリですけれども」

U「ペルーのリマからブラジルのサンパウロって言ったら南米横断じゃない!! 凄いねぇ。そうすると、今がプーノだから一番きつい所終わったあたりか」

T「そうですね。そう、ナスカからクスコに上がるのが辛かったですよ。ナスカをちょっと出た所で登りばっかりだから後どのくらい登りなんだ?って聞いたら後100Kmずっと登りだって言われて。」

U「100Kmずっと登りだったんだ。」


クスコ出発前。この後、プーノで再会する事になろうとは…

T「で、結局、50kmずつ2日間に分けて登ったんですけど、最後の方とか標高高くなって空気薄くなるし凄くきついんですよ。10m進んだらもういいやって感じで。」

U「あはは。だって、ナスカからクスコ間って4000mの峠あるでしょ? 俺らなんか3400mのここで階段登ってきついって言ってるのに、自転車で荷物持って…俺はいやだなぁ。そう言えば、なんでこのルート選んだの?」

T「ただ、アンデス登りたかったんですよ。」

U「へ?じゃあ、この4000mの峠を登りたかったんだ」

T「そうです」

U「マゾだ。(爆笑)真性マゾ。」

T「いや、チャリダーとして色々あるんですけれども、アンデスはやってみたかったんですよね」

U「他にはどんな所行ったの?」

T「ほとんど日本ばっかりですけど、南アフリカと、アジアは行って来ました」

U「それは両方ともチャリンコで?」

T「そうですね。あ、でも南アフリカまでと、アジアまではちゃんと飛行機ですよ」

U「そりゃそうだ。(笑) で、日本ではどういう所走ってたの?」

T「僕の大学が北海道だったんで、北海道が多いです。僕、大学で自転車部にいたんですよ。大学一年の頃、自転車部の先輩とかと一緒にツーリング行くじゃないですか。そうすると、先輩達って走りながら「この後ちょっとしたら自販機があるからそこで休憩しよう」とか、「この後ちょっとするとコンビニがあるから…」とか言うんで、僕凄いなぁと思ってたんですよね。」

U「うんうん。」

T「そしたら自分も4年になったらそうなってて。(笑)」

U「あはは。そうなんだ。それがあたり前になってるんだ」

T「まぁ、いつも走ってますからね。覚えるんですよ」

U「そう言えば、年にどれ位走っているの?」

T「うーーん。一年に大体5000Km位ですか」

U「5000Km!! 凄いなぁ。一日100Km走るとしても50日かかる計算だ。そう言えば、こっちに持って来た自転車は新品?」

T「いや、もう4年位走ってる奴ですね。」

U「4年と言うと…20000Km?」

T「今年に入って5000Kmくらい走ったから…25000Km位ですか」

U「凄え。下手なバイクより走ってるじゃん」

T「そうですか?」

U「そうだと思うよ。北海道って、冬の間雪降るじゃない? その時はスキーとかしてるの?」

T「スキーはしないですね。ずっとバイトとかしてます」

U「雪降るともう走れないんだ。チェーンとかないの?」

T「雪降るともう走らないですね。こけたりしてその後から車が来たら危険ですし。だから冬の間はブルーですよ」

U「走れないんじゃなくって、走らないんだ」

T「ガマンしてます。」

U「で、その自転車で日本とか世界を走りまくってると。そう言えばさ、日本って泊まる時どこに泊まってるの? キャンプ場とか?」

T「いや、キャンプ場なんか使わないですよ。僕はトイレが好きですね」

U「は? トイレ?」

T「そうです。トイレ。最近のトイレってきれいじゃないですか。一億円トイレとかあって。」

U「でも、トイレでしょ?」

T「いや、ホントに良いんですよ」

U「そうかなぁ? 信じられないなぁ。やっぱりトイレに座ったりして寝たり?」

T「そうじゃなくって。あの、男トイレと女トイレに分かれる前室があるんですけど、そこで寝るんですよ」

U「でもトイレでしょ?」

T「ホントに。今のトイレって凄くきれいなんですよ。さわやかトイレとかってどの街にも大体一つくらいあるんですけど、そこが良いんですよ。後は道の駅のトイレとかも使えますよね」

U「あ、分った。どんなトイレでも良いって訳じゃないんだ。俺、公衆便所って言うから凄く汚いの想像してた。 なんか、トイレフェチなのかなぁ?って思ってた。(笑)」

T「そんな、いくら僕だって汚いトイレは嫌ですよ。(笑)」

U「で、そんなトイレが全国にあるんだ」

T「そう、大体全国にありますね。トイレって、凄く良い所なんですよ。暖房があったりする所もあるし」

U「暖房付きなんてあるんだ」

T「あります、あります。だって、トイレって水とトイレと寝る場所があって、完璧なんですよ」

U「ああ、それはそうかもね。言われてみればもっともだ。で、きれいだと」

T「(笑) まぁ、そうですね」

U「そう言えば話かわるけど、チャリンコ重そうだよね。何キロぐらいあるの?」

T「そうですねぇ…30Kg位ですか。」

U「え? 30Kgもあるの? バイカーの人達だってそれは嫌がるヨ」

T「まぁ、トレーニングと言うことで」

U「いいんだよ、もうトレーニングなんかしなくたって。もう実践なんだから。(爆笑)」

T「そう言えばそうですね(爆笑)」


藤さんの愛車。現在25000Km走破。

U「やっぱりマゾだ。それで、自転車はどんなのに乗っているの?」

T「ランドナーってタイプの奴ですね。」

U「マウンテンとかはダメなの?」

T「ああ、あれはダメです。辛くって。」

U「ランドナーって言うのはどういう奴?」

T「スポーツタイプのチャリありますよね。タイヤが凄く細い奴。それをもうちょっとタイヤ太くしたり、泥除けつけたり、頑丈にしたりした奴ですね」

U「ははぁ。長距離を走るのに向いている訳だ。」

T「そうです。」

U「でこれから何キロ走らなきゃいけないんだっけ?」

T「あと、4000キロ位ですね」

U「ルートは?」

T「これから、ボリビア通って、パラグアイ通って、イグアスの滝通って、それでブラジルと言う感じで」

U「大変だね。がんばって走りとおして、また日本で話聞かせてよ。そうそう、なんか、これを読んでくれた人に言いたい事とかってある?」

T「うーーん。これと言ってあんまりないですけど。自転車で旅行してると凄く自由で、良いんですよ。自転車旅行も良いなって。そんくらいかなぁ。」

U「分りました。ありがとうございました。」

 藤 暁之さんは、自転車で南米を横断すると言う、決して普通の人がしないような凄い事をしているのに、ぜんぜん飾らない人でした。私も、そんな藤さんの人柄に惹かれてしまいました。

 藤さん、ありがとうございました。また日本で会いましょう。(^0^)/~~HastaLuego!

モドル