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グアテマラ日本人殺害事件の真相 2000.5.9 現在、多くの日本人旅行者はインターネットカフェで朝日新聞や読売新聞などのHPを見て日本の情報を収拾しています。私達もインターネットカフェに行くと、何をするよりも一番最初に新聞社のHPを開けて、「今日はどんな事件があったのかなぁ…」と見るのが日課の様になっていますし。ですので、先日のグアテマラでの日本人殺害事件は日本で事件が発表されたのと同時に私達も耳にしました。 事件後に日本から来る友達のメールの多くは、私達が南米に居るってみんな知っているにも関わらず「グアテマラで日本人が殺されたらしいけど大丈夫?」と言う内容ばっかりで、「やっぱり日本人の多くの人って中米と南米の区別あんまり付いていないんだろうなぁ。旅に出なければ俺らだってグアテマラがどこにあるか分らなかったものなぁ。」と苦笑していたのです。 さて、普通だったらそれでこの話は終わってしまうのですが、今私達が滞在しているキトのホテルに実は事件が起きたその時、その場所に居合わせた人が泊まっていたのでした。 事件が起きたのは、グアテマラ北部、メキシコ国境にほど近い小さな街トドス・サントス・クチュマタン。トドス・サントス・クチュマタンは民族衣装が綺麗なグアテマラの中でも多少変わった衣装を着ていて、外国人旅行者に非常に人気が高い所です。 近くには、2つのピラミッドなどを持つ小規模なマヤ遺跡があり、土曜日に開かれるメルカド(市)には民族衣装を着た人々が集まることで知られています。またグアテマラの内戦時に、反政府武装組織との関係を疑われた多数の住民が、軍によって街郊外で虐殺される事件がありました。
事件が起きた4月29日の前日に、猪飼さんはバスで事件が起こったトドス・サントス・クチュマタンに入り、一泊。当日の朝、写真を撮りにメルカドに出かけました。 ウメ(以下U)「こんにちわ。」 猪飼(以下I)「こんにちわ。」 U「えっと、事件が起こった時にトドス・サントス・クチュマタンにいたと言う事ですが、まずトドス・サントス・クチュマタンと言う所はどんな所なのか教えて下さい。」 I「まず、グアテマラの中で一番民族衣装が面白いと言うのがあります。男性は赤に白のストライプのズボンをはいていて、上は白にカラフルなストライプの入ったシャツを着ています。また、グアテマラの中で私が感じた中では一番人の良い街だと思います。」 U「なるほど。」 I「それで、個人旅行者が行ってみんなが口コミでこの街はいいよと伝え、個人旅行者が主に集まる様になった街なので、一大観光地でもないし、旅行者を知らない街でもない、非常に旅行者にとって居心地のいい街です。例えば、市内にスペイン語学校がありますしね。欧米人達がトドス・サントス・クチュマタンを気に入ってスペイン語学校を開いていたりする。そう、確かにグアテマラの外れにありますけれども、新聞や西遊旅行が言っているような辺境ではけっしてないんですよ。」 U「ははあ。そうすると、普段の街は落ちついていて、事件が起こるような感じではないんですか? というのは、事件が起こりそうな街って言うのはやはり起こりそうな雰囲気と言う物を持っていますよね?」 I「それは全くないです。で、村の人も言っていたんですけれども、こう言った殺人事件は今まで皆無だったらしいんですよ。トドス・サントス・クチュマタンが始まって以来だと言う話でした。」 U「ははあ。じゃあ、旅行者にとっては非常に居心地のいい街として知られていたんですね。」 I「そうです。」 U「そうすると、まず新聞などで報道されているような写真を撮ったのが事件の発端にはならなそうな気がするんですが。」 I「にはならないですよね。写真を撮られるのは確かにインディヘナ(先住民)の人はいやがるんですけれども、それで殺人事件になる様な事はないと思います。私は嫌がる人は撮らない様にしていました。」 U「そうですよね。やっぱ写真撮るマナーってありますものね。」 I「で、その日の午前中なんですけれども、外国人旅行者がインディヘナの人が嫌がっているにも関わらず凄い至近距離で彼らの写真を撮っていたんですね。でも、嫌がるけど基本的にはそれだけなんですよ。」
U「じゃあ、写真が原因と言う訳では絶対ないんですか。そうすると、何が原因だったんでしょう?」 I「まず、グアテマラ北西部(ウエウエテナンゴ周辺)で悪魔を崇拝する教団が子供を誘拐して生贄にすると言う噂が流れて居たんです。そのころウエウエテナンゴ周辺で2人の子供が居なくなっていると言う話もあったんです。ただ、その話自体にはそんなに信憑性はないんですけれども.。」 U「なるほど。確かに中米で子供が居なくなるって言う話は時々聞きますものね。」 I「で、その噂がその時トドス・サントス・クチュマタンまで流れていたんです。正確な日付は分らないんですけれども、事件が起きた数日前に小学校で子供達に誘拐事件が起きているので気を付けるようにと言う話をしていたらしいです。」 U「ちょっと事件の核心に入る前に、その悪魔崇拝教団ってどんな教団だか教えて頂けますか?」 I「中米とコロンビア一帯に居る人身売買グループじゃないかという話です。これはコロンビアで活動していたJAICAの人が言っていたんですけれどもね。その人身売買グループがインディヘナの人達にとっては悪魔崇拝教団として受けとめられていると言う事らしいんです。」 U「なるほど。いかにもありそうな話ですね。さて、そうすると事件の起こった頃と言うのはグアテマラ北西部を中心としてちょっとした緊張状態だったと考えていいんですか?」 I「いや、あくまで噂だったんですけれども、グアテマラ北西部の先住民の村などでは子供から目を離さないでいようと言う気持ちでいたとは思うんです。それぐらいだと思いますよ。」 U「ははあ。そうすると、観光客に判るくらいの緊張状態と言うのはなかったんですね?」 I「そうです。僕がトドス・サントス・クチュマタンを訪れたのは2回目だったんですけれども、全く変わりはなかったですね。」 U「いたって普通だった、と」 I「普通でした」 U「さて、じゃあなんで彼らは事件に巻き込まれたんでしょう?」 I「まず、最初にインディヘナから暴行を受けた二人、これはガイドの女性と77才のおじいさんだったんですけれども、彼らがメルカド(市場)内で買い物をしていたんです。それで、メルカド内で買い物をしていたら近くに居たおばさんがなにかを叫んだと言う話です。」 U「はい。」 I「その言葉は先住民の言葉だったんで、おそらく2人には理解できなかったんですね。その瞬間に目の前にいた人の顔つきが一気に変わって、周辺にいた人達と一緒に一気に殴りかかってきたんです」 U「はい。」 I「で、その叫び声って言うのはそのおばさんの子供がどっかにいっちゃった叫び声で、そのおばさんがこいつらがさらったに違いないって思ったんでしょうね。兎に角おばさんの子供が居ないっていう叫び声が引き金になったんですね」 U「ええ。」 I「なんで、彼らがそう言う風に疑われたんですかね?」 U「もともと、トドス・サントス・クチュマタンにはグループ旅行者って言うのはあまり来ないんです。たまたま日本人の2グループ(両方とも西遊旅行)がバスで集団で乗り付けて来たんです。で、インディヘナにとっては旅行者だとか、日本人だと言う意識ではなくってグループで来ている人達と言う風に映ったんです」 I「それが?」
U「インディヘナの間に流布していた悪魔崇拝教団って言うのはグループで子供をさらうって言う話だったんです。なので、日本人の2グループが子供をさらいに来ているグループと勘違いされたんでしょうね」 I「ははあ。」 U「ちょっと話を戻しまして。その最初に襲われた2人と言うのは無事だったんですか?」 I「多少傷をうけていましたけれども、無事でした。おじいさんの方はおでこに9針くらいの傷を受けていましたけれども。」 U「そうすると、殺された人って言うのは誰なんですか?」 I「そう、たまたまその近くに居合わせて、何か異変があったと思って近づいてきたらしいんです。その時に、添乗員の女性が危ないから来ないでと言う事を言ったらしいんですけれども、その時には遅くって、その男の人はインディヘナに取り囲まれて姿が見えなくなったんです」 U「ええ。」 I「それが、メルカド内で日本人が殺された事件の概要なんです。」 U「ちょっと待ってください。メルカド内で襲われた人って言うのは何人ぐらいに取り囲まれたんですか?」 I「捕まったのは14人ですけれども、数十人ぐらいです。」 U「それは野次馬含めてですか?」 I「そうだと思います。」 U「で、猪飼さんはいつ頃事件に気が付かれたのですか?」 I「ちょうどその頃です。なんか、メルカドにいっぱい人が走って行くんですよ。それでなんとなくおかしいなと思って。」 U「で、事件に気が付いた後どうしました?」 I「事件に気が付いて見に行こうと思ったんですけれども、たまたま同行していた彼女が走って来てインディヘナの人達が子供が誘拐されたと言っていると伝えてくれたんです。僕もそばにいたインディヘナのおじさんに何がおきたの?って話かけたんです」 U「ええ。」 I「おじさんも状況が分らなくって、現場から走って来るインディヘナの人に話かけて、やっとこ子供が誘拐されたらしいと言う事が判ったんです。」 U「で。」 I「その時、もう1人友達が同行していたので友達を探して居る時に、インディヘナの女の子が近づいてきて、今危ない情況になっているから逃げなさいと言ってくれたんです。で、その直後にもう1人の友達を見つけられたので3人でホテルの方に非難したんです。で、この後の話は先ほどのJAICAの人とホテル内でホテルに来た色々な人に聞いたんですれども。」 U「はい。」 I「先ほどの事件があったちょっと前に、ガイドの女の人が他の日本人の旅行者にそろそろ出発だからバスに戻ってくださいと言う事を言っていたんです。それで、何人かの日本人はバスに戻っていたんですね。」 U「バスの所までインディヘナの人達はやって来たんですか?」
I「そうです。日本人がバスに戻って行くのを見て、子供をバスに載せて行ってしまうと思ったので、インディヘナの人達はバスの方に向かって行ったんです。それで、バスには現地のドライバーと現地ガイドと日本人がいて、インディヘナの人達はバスのドライバーに子供がこの中にいるはずだからバスに乗せろと言ったんです」 U「ええ。それでどうしたんですか?」 I「それで、バスのドライバーがここには旅行者と私達しかいないと言って、バスの中にインディヘナが入らない様にしたんですけれども、結局バスドライバーは押し問答の末に引きずり出されて、殴られて、ガソリンかけれて燃やされちゃったんです」 U「え?燃やされちゃったんですか? 燃やされちゃったって言うのは猪飼さん見たんですか?」 I「いや、僕は見ていないです。言っていたのは警察官ですね。あと、ホテルに来たインディヘナの男の子とか何人の人達も同じ事を言っていました。殺されるちょっと前に、現地ガイドの人は警察に助けを求めに行ったんですね。そしたら、インディヘナの人達が彼の後に付いて行って、彼が警察のドアをノックしている時にぼこぼこに殴っていました。」 U「え?いましたって言うのは、猪飼さんはそこにいたんですか?」 I「いました。で、それを見て、これはヤバイんだなと思ったんで、本格的に逃げたんですよ。」 U「判りました。」 I「その時、バスに乗っていた人達はインディヘナの人達がバスに投石をしたので、ガラスが割れて危ないからと言ってジャケットを頭に載せてうずくまっていたらしいです。」 U「その人達に被害は無かったんですか?」 I「1人、女の人が膝とほほに傷を受たのと、男の人が首に石があたったのかあざができていました。後の人は大丈夫でした。で、彼らは警察が催涙弾を発射してインディヘナ達を退かせ、警察に護衛されながらバスから逃げ出して僕の居たホテルに避難して来たんです。」 U「猪飼さんのいたホテルに来たんですか?」 I「ええ。僕の避難したホテルって言うのは、Casa de Familiarと言うホテルで、となりが市長の自宅だったんです。そのホテルが外国人の避難場所になっていたんです。そこに、ツアーできた日本人19人(含む日本人ガイド2人)、僕を含めた個人旅行者5人と、欧米人ツーリストが15人ぐらいが避難したんです。」 U「そのホテルが避難所になったって言うのはなぜですか?」 I「まず、市長宅の横だったって言うのがあって、あと、中庭が外から見えない様になっていたからでしょうね。その時、旅行者と言う旅行者は全てそのホテルに来ていたと思いますよ。」 U「で、逮捕されたのが14人だったと言う事なんですけれども、なんでそれは判ったんでしょうね? 現地の新聞によると500人が襲ったって言っているのですが。」 I「この事件で、日本人が死んだと言う事で、国際問題になっちゃったんですよ。で、日本ってグアテマラも含めて中米に非常に多くの援助をしているんですね。」 U「ああ、確かにそれはあるんでしょうね。日本が援助をしているよって言うのは中米で良く聞きますよね。」 I「それで、国家警察みたいな人が来てみたリ、後でUN(国連)の人が来たので…多分、何がなんでも犯人をって言うのがあったんでしょうね」 U「ははぁ。なるほど。」 I「そうそう、それでメルカドで人が殺されたっていうのを聞いて現地のおばちゃんとか泣いちゃったんですよ。で、僕が泊まっていたホテルにもインディヘナのおばちゃんとが来て、ごはんを出してくれたり、涙ながらにみんなに謝ったり、気持ちを落ち着ける現地の民間療法とかやってくれたりして、非常に親切にしてくれました。」 U「へぇーー。そんな事があったんですか。」 I「なんか、涙を流しながら襲われたおじいちゃんにだきついて、ごめんね、ごめんねって言うんですね。」 U「本当は優しい人達なんですね。」 I「そう。彼らは子供を奪うグループが問題なんであって僕達ツーリストには凄く良くしてくれるんです。例えば、トドス・サントス・クチュマタンが安全だっていう話の1つに、殺された人が居るじゃないですか。その人のカメラは盗まれていないんですよ。」 U「へぇーーー。そうなんですか。でも、そのカメラを持っていったら犯人にされちゃうって言うのを考えて盗まなかったとか。」 I「ああ、確かにそう言う見方もあるでしょうね。」 U「でも、良く考えてみると、本当に危ない所だったらカメラは絶対盗まれてますよね。だって、殺人をする時の動機として金品が欲しいって言うのが中南米では大半ですものね。」 I「そうだと思います。彼らは本当に子供を盗まれるって言うのだけを恐れていたんですね、多分。だって、僕らのような個人旅行者には彼らは優しくしてこそすれ、襲うなんて事は一切しませんでしたから。」 U「多分もう日本ではグアテマラは凄く危ないって言うイメージが出来あがっちゃいましたよね。」 I「そうでしょうね。グアテマラに日本のTV局がアンティグアでスペイン語学校を経営している日本人に取材に来たんですけれども、なんか電話で話していてもグアテマラの悪印象を流そうとしている姿勢がありありと判ってしまったらしくって…僕もそれを聞いて取材拒否しました。」 U「ああ、日本のTV局ってそう言う姿勢ありますね。なんか、ワイドショーとか、ニュースとか作っている人から話を聞いた事があるんですけれども、彼が言うにはどんな手段を使っても良いから自分が欲しい答えを聞き出すのが仕事なんだって。テープなんて繋げば良いんだって。僕、それを聞いてからニュースは信用しない様にしましたけど。」 I「ああ、その話は僕も聞いた事があります。寂しいですね。出来たらこれを読んでくれた人がちゃんとした事件の真相と、グアテマラはそんなに危険じゃないんだと思ってくれると嬉しいです。」 U「そうですね。私もグアテマラに居ましたから、グアテマラはそんなに危険じゃないんだよって僕も思いますし。今日は、長い間ありがとうございました。」 この事件の詳細はRideTandemにもあります。ぜひ見に行ってください。 |