「天竺」目指して夫婦モバイル放浪

 
 

 

k日記ベネズエラ編

2000.7.1(土)

 2泊3日のカナイマ国立公園を見るツアーはセスナに乗る事から始まった。上空から見たジャングルには、びっしりと緑が生えていた。その緑の合間を縫って雄大に流れるオリノコ川と緑がはだけた赤い土地が所どころにある。

 薄曇が私達の視界を遮る。切れた薄曇の合間からどこまでも続くジャングルが見える。大きな湖があった。遠くに薄くぼんやり台形の山が見えてきた。そして、また薄曇が視界を遮る。突如、横に現われたテーブルマウンテン。切り立った山壁、大地のような頂上に圧倒される。緑の絨毯からひょこっと突き出た茶色のテーブルマウンテンとテーブルマウンテンの合間を縫って飛ぶセスナ。よく見れば、テーブルマウンテンの上は、縦に亀裂が入ったり、岩が立っていたりと凸凹だった。その亀裂から、頂上に溜まった水が流れ出し無数の滝を作っていた。

 そして、一際高くそびえるテーブルマウンテンが目の前に現われ回りこむようにセスナが飛ぶ。テーブルマウンテンの一角が丸くへこみ、そこから大量の水が流れ落ちていた。下まで届く事はないその水は途中で霧となって大地に降り注ぎ、円形の虹までも作っていた。エンジェル・フォール、声も出ないほどの感動が胸に込み上げる。すばらしい。2,3回エンジェル・フォールの前を飛びその場を離れ、カナイマの空港に向かった。

 カナイマのツアーセンターらしき所でお昼を食べ、水着に短パンTシャツ、サンダルに着替えて、余分な荷物をトラックに預けてカナイマ国立公園に足を踏み入れる。

 ものすごい量の水がものすごい勢いで流れ落ちる滝が見える。その湖をボートが走る。滝の飛沫が遠く離れた所を走るボートにまでやって来る。横波を受けて、すでに濡れているボートの乗客たち。対岸の島に着いた時には、頭からつま先までびっしょりだった。

 ボートでたどり着いた所からしばらく歩く。と、どこからともなく地響きのような音がかすかに聞こえて来る。近づくに連れてものすごい轟音に変化してゆく。頭上の岩から水が滴り落ちている。目の前に轟々と流れ落ちる滝が見えた。ものすごい水量だった。あまり近づくと滝かどうかも分からないほど、前面に水が噴出し、大量の水飛沫が発生していた。自然の階段を降りる先は、水飛沫と頭上からの水で前が見えなかったが、看板にエル・サポと書いてある。頭上から看板をすぎると寸分先は、水飛沫と霧だった。いっしょのツアーの人達が服を脱いで水着になっていた。なぜ?こんな所で、水着になるの?ここじゃ泳げないよ・・・何故かガイドも服を脱いでいた。ガイドが、何かを言っている。でも、轟音でよく聞こえない。

 とにかく、このままでいては、バックも洋服も何もかも濡れてしまうので私達も洋服を脱ぐことに。するとガイドが寄って来て、ビニール袋を差し出す。「これにカメラを入れて口をしっかり結んで、水が入らないようにして。しっかり持ってついてくるんだよ」そう聞こえたので、カメラをビニールに突っ込みしっかり縛る。で、どこ行くの?とガイドを見るとよし来いとばかりに手招きをして、水飛沫の中へ消えて行った。・・・うそ、この滝の裏くぐるの?恐怖で足がすくむ。後ろではしゃぐうめちんに背中を押される。本当に行くんですか?誰かに聞きたい心境だったが「行くよ」と言う答えしか返ってきそうに無いのでやめた。ココは、腹をくくるしかない。

 たぶん、中は岩がすごくえぐれていて、洞窟のようになっているに違いない。こんなにすごいのは入り口だけだよねぇ・・・そんな事は、無かった。滝の裏にはたしかに道らしきものはあった。水が少なければ、楽しかろう。が、今の水量だと、窪んだ道にものすごい量の水飛沫が横から叩きつけているし、その窪にぶつかった本流が道にぶつかり逆流していて、足場がまったく見えない。ちょっと間違えば足をさらわれて滝に転落なんて事にもなりかねない。

 当然、前は見えなく、ものすごい量の水を上から横から叩きつけられる。こんな所を進めるはずもなく、へたりこんでしまいそうだったがそれも出来なく、なんとしても前に進む他ない。ものすごい台風の日に堤防を歩くそんな感じがした。どうして、こんな所を歩かなくちゃ行けないんだ?すごいと言うより恐怖だった。目の前が開けたときには、生きていてよかったと本当に思った。ほっとした瞬間、対岸に洋服を脱いできたことを思いだし、またブルーになった。ココをまた戻るんだよね・・・泣きたくなった。さすがのうめちんも真顔で滝の裏から姿を現し「ここは、すごい」とものすごく感動していた。

 先ほどの滝より大きいと言う、エル・サポを眺める。こんな滝の裏側を通って来たんだ・・・言葉もでない、帰ることを考えるともっと言葉が出ない。

 帰りの時がやってきた。滝の裏の前で立ちすくんでいると、「岩に頭をぶつけてけがをするからそっちの手は岩を触っていてくれ」そう言って、ガイドさんが手をもって誘導してくれた。でも、恐怖には変わりない。「大丈夫かい?でも、よかっただろ?」とガイドに言われたが「セニョール、ありがとう。すごかったよ」とは言ったものの生きた心地はしていなかった。

 滝の上からボートに乗り川をさかのぼる。この、国立公園の川の水は、黒い。と言うか、薄い茶色をしている。何故か?それは、ジャングルに生える木の成分のタンニンが溶け出しているからだそうだ。いっけんすると、ブラックコーヒーのように見える。急流の所に来ると茶色の泡が立ちコカコーラや黒ビールに見える。水面を滑るようにボートが進む。鏡のような水面には、両側に生い茂った木々が映りこんでいて、静かで美しい。

 エンジェルフォールに程近い、川の中洲にゆっくりとボートが近づく。「ようこそ、我々のキャンプへ」陸に上がると向こうから犬が猛ダッシュで駈けて来た。お出迎えらしい。芝が生えた丘の上に大きな小屋が見えた。中に入ると、たくさんのハンモックが吊ってあった。窓も壁もない。あるのは、屋根のみ。割り振られたハンモックに横になる。揺れるハンモック。風通しもよく気持ちがいい。

 トタン屋根を雨がぽつぽつ叩く。しばらくすると、屋根が壊れんばかりの雨が降ってきた。いつまでも、いつまでも・・・明日は、晴れるかな?

 
2000.6.30(金)